「ダッコちゃん」は、昭和35年(1960年)に発売され、大ヒットしたビニールのお人形。
空気を吹き込んで膨らませると写真の形になり、腕などに抱きつかせることができた。
私の父は、口数が少なく、子供と遊んだりかまったりすることはほとんどなかった。
父の冗談を聞いた記憶もなく、私としては厳しくてとっつきにくい人だった。
そんな父がある夕方、前触れもなく「ダッコちゃん」人形を持って帰ってきた。
家族は誰もまだ「ダッコちゃん」を知らなくて、その人形の異様さと、あの父親が
買って持ち帰ってきたことに一様に驚愕した。
私も驚愕したが、子供心に父親のお茶目な面を見せられて、少しおかしかった。
そして、「ダッコちゃん」はわたしのお気に入りになった。
ところがその後、父はしばらく続けざまに「ダッコちゃん」を買ってきた。
部屋の中に色々な「ダッコちゃん」がかざられた。
今でもその時の父の気持ちと行動は、私の理解を超えている。
父はすでに20年程前に亡くなっているので、確かめるすべもないのが残念だ。
だが、この写真を改めて今見ると、幸せそうな私がそこにいる。
「ダッコちゃん」は、口下手で不器用な父が、わが子に送ったメッセージだったのかもしれない。